「……で、ぴよ吉はどうしてそんなすがたになってしまったんだ?」
結局、『ぴよ吉』という呼び名をくつがえすことができなかったぴよ吉は、不服そうな顔をしながらも言った。
「思いが強い生き物は、まれにこうしてすがたを変えることがあるらしい。年老いた家猫が『猫また』に化ける話とか、おまえも聞いたことがあるだろ」
「それはまあ、あるにはあるが……、では、ぴよ吉はニワトリの妖怪になってしまったのか。しかし、どうしてそんなにくわしいんだ?」
「俺もあの女からいろいろ聞いたからな」
「あの女?」
飛鳥が首をかしげると、ぴよ吉がやれやれと肩をすくめた。
「マリアだよ。おまえも、あの女に未練がどーのって言われてたろ」
「なんだ、見ていたのか。……しかし、そのマリアはいったいどこに行ってしまったんだろう」
飛鳥は夜空を見上げた。
今夜は雲もなく、星がきれいに見える。
月はふっくらとしていて、あと何日かで満月になりそうだった。
「あいつはおまえとちがって校外にも出歩けるみたいだし、どっかで遊んでるんじゃねえの」
ぴよ吉の言葉に、飛鳥は考えた。
「マリアは妖怪ではなく、私と同じ『幽霊』だよな? 彼女もこちらの世界にいるということは、なにか未練が残っているのかな」
「くわしくは知らないが、探しものをしているって」
「探しもの……?」
ぴよ吉はため息をつきながら言った。
「妙なやつだよ。やたら幽霊や妖怪についてくわしいし、あんな存在になってから長いみたいだし」
「……マリアも未練を晴らすために、夜(よ)ごと探しものをしているのだろうか……」
そう言って思いつめた顔をする飛鳥に、ぴよ吉は慎重に言った。
「おまえ、人のことよりまずは自分のことを考えろ。
お人よし過ぎるんだよ、だからこんなにはやく、くたばったりするんだ」
「そんなことを言われてもなんだか、死んだ直後よりもどんどん未練が増えていく感じだ」
飛鳥は口をとがらせた。
「世話になった人を放っておいて、自分だけ安らかに成仏なんてできない」
「おまえなー……」
はああ、とぴよ吉がまた、深いため息をつく。
そしてなにか言おうと開きかけた口を一度閉じると、遠くを見ながら投げやりに言った。
「……まあ、俺たちには時間はいくらでもある。ゆっくり考えるくらいはいいんじゃねえの」
「うん。そうする」
飛鳥は笑ったが、ふと笑うのを止めると、ぴよ吉にたずねた。
「……ぴよ吉は、思いが強いからそのすがたになったんだよな。……それは、いま死んだら未練になるようなことがあるから?」
「ああ、そうだよ」
すがたが変わるくらいの思いの強さ。
その正体を、飛鳥は知りたくなった。
「それは、なに?」
飛鳥がぴよ吉を見ると、ぴよ吉はふい、と顔を背けた。
「……なんだっていいだろ、そんなの」
「水くさいな、教えてくれてもいいじゃないか」
「おまえは自分が成仏できる方法でも考えていればいいんだよ」
「ぴよ吉! 私の未練を増やす気か!?」
飛鳥がむーっと頬をふくらませて、ぴよ吉が笑う。
そうして笑うぴよ吉を見ながら、飛鳥はあることが気になっていた。
(……そういえばさっき、どうして幽霊の私がぴよ吉のズボンに触れることができたんだろう……?)