推察する昼(b)


青空の手が止まった。

「さ、殺人……?」
「うん。越智さんの背中を、だれかが押したということも考えられる。 ……でも、もしそうだとしたら、まっ先に疑われるのはいまうわさになっている、鹿波さんだ。 その鹿波さんが越智さんの自殺を否定するのは、狐塚先生が言うようにすこしおかしいと思う」

呆気に取られた顔で誠のことを見つめていた青空が、ぽつりと言った。

「すごいね、誠君。……なんだか探偵さんみたい」
「……探偵?」

その言葉を聞いて、誠はわずかに、くちびるのはしを上げた。

「そんなんじゃあない。……僕はただ、理不尽な世のなかに我慢できないだけだよ」



そんなふたりのようすを、屋上のとびらのかげから狐塚がうかがっていた。

「……オイオイ、なんで今日はあいつらが屋上を使っているんだよ? タバコが吸えねーじゃねえか」

すると狐塚のとなりで、兎沢が笑った。

「青春だよねえ。そういえば赤月君にきのう、幽霊について聞かれたから、あの神隠しの事件のことを教えてあげたよ」
「はあ?」

狐塚は心底いやそうな顔で、兎沢の顔を見た。

「おまえ、余計なことをするんじゃねーよ……! ただでさえ、今回は越智が死んでんだぞ……!?」
「それでも、あの子たちの行動力はわるい方向には働かないと思う。勘だけど」
「あてになんねー……」

狐塚ははああ、と深くため息をついた。

「……ああ、もうめんどうくせえ。昼飯食べに、食堂行くか……」
「もうすぐお昼の時間、終わるよ。早く行きましょ、『狐塚先生』」

兎沢がからかうように、『先生』を強調してそう呼びかける。
それに対して、狐塚もふてくされながら負けじと答えた。

「……うるせえよ、『兎沢先生』」