昼食が終わったあとの、昼休み。
鹿波もこなとその友人・下水流詩良(しもつる・しいら)は、学校のそとにある雑木林で時間をつぶしていた。
月見坂学園の校庭のフェンスには破れ目があり、そこからここへと抜けられるようになっているのだった。
「それにしても、まさかあんなんで死んじゃうとはねー……」
詩良がクスクスと笑うと、持ってきた菓子のセロハンをびりびりとやぶり捨てた。
詩良はもこな以上に、派手な印象の女子生徒だった。
毛束の多い髪を高い位置でふたつに結んでおり、校則違反のカラフルなリボンを飾っている。
格好は派手でも比較的まじめに授業を受けているもこなとちがい、詩良は気ままに授業をエスケープする、自由な性格の持ち主だった。
「ねえもこな、きのう狐塚になにか言われた?」
「なにもなかったわ」
もこなは詩良を見ずに答えた。
詩良は菓子を口のなかに放りこみながら、言った。
「そ。……まあ、学校は檻(おり)のようなものだけれど、その檻に守られているのも事実だからな」
そして鼻で笑う。
「……よくもわるくもね」
「か、鹿波さん……っ」
ふいに、ふたり以外の声が聞こえてきた。
ふたりが同時にふり返ると、そこにはA組の狩谷佑虎が立っていた。
佑虎は息をきらしながら、ふたりに向かって小さな声で言った。
「ここに来るのが見えたから、走ってきたんだ……」
詩良はひとりでキャー、とうれしそうに飛びはねると、もこなの背中をばんばんとたたいた。
「あたしは先に帰ってるから! ……あとで色々聞かせてよ?」
詩良はもこなに小声で耳打ちすると、せわしなくその場から去って行った。
うんざりとした顔で詩良を見送ったあと、もこなは佑虎をちらりと見た。
「……なにか用?」
「あ、ううん、特にこれと言ったことはないんだけれど……」
うつむく佑虎を見て、もこなは不愉快そうに顔をそむけた。
「……どうせ越智さんのことでしょ? 小言は狐塚だけで十分」
もこなは舌打ちをした。
「……で、でも……、あの、僕、鹿波さんに言いたいことがあって……」
しかし、なにかを言いかけた佑虎に向かって、もこなは、
「……うるさいわよ!」
と声をあらげた。
とまどう佑虎をまえにして、もこなはぴしゃりと言い放つ。
「佑虎、小学生のときからあんたのことをずっと見ていたけれど……、
あんた、越智さんのあとばっかりくっついていって、ほんとうにばかみたい。
もう、あいつは死んだのよ? だからあんたはもうあんなやつのこと、一日もはやく忘れるべきなのよ!」
そのとき、ぼたぼたぼた、ともこなの上になにかが落ちてきた。
しばらくきょとんとしていたもこなは、やがて悲鳴をあげた。
「きゃ、きゃあああ!? なにこれ、毛虫ッ!?」
「え、え!? だ、だいじょうぶ!?」
「いやあああッ! は、はやくとって! きゃあッ!? 背中に入った!!」
ギャーギャーさわぐもこなの頭上の木の枝のかげで、
「ざまあ見ろ、ばあか」
ぴよ吉がへっ、と笑ったのだった。