気まぐれな放課後(d)


「……ごめんなさい……」

青空が、しゅんとうなだれた。

「狩谷君と飛鳥ちゃんがお話できればいいな、って思ったのに……」
「いいや、その気持ちがうれしいよ。ありがとう、西森さん」

飛鳥は笑った。

「しかしまた、どうして急に?」

青空は上目づかいで飛鳥を見た。

「……ねえ、飛鳥ちゃんには好きな人って、いる?」
「えっ?」

とつぜんの問いに、飛鳥は困惑した。

「……好きな人はたくさんいるが、あこがれていたのは赤月君、かな」
「ええっ!? 飛鳥ちゃん、誠君が好きだったの!?」
「わわわっ! 大声を出すなっ!」

飛鳥は口もとの前に人さし指を立てて、シーッ、と言った。

「入試の時の成績で名前を知ってからあこがれ……というより尊敬していて、ずっと気になっていたんだ。 でも、幽霊になってから赤月君と話すことができて、ますます気に入った」

青空がごくりとつばをのみこみながらも、次の言葉を待つ。
飛鳥はというと、はにかみながら言った。

「だから赤月君のことは、西森さんと同じくらい好きだ」

それを聞いて、青空が椅子の上でずるっとすべった。
そしておそるおそる、たずねる。

「じゃ、じゃあ、誠君に恋をしているというわけじゃあ……」
「なっ! 滅相(めっそう)もない! 赤月君とは友人になりたいと思っているだけだ!」
「えええ……! そ、それじゃあ、狩谷君のことはどう思っているの?」

飛鳥は一点のくもりもない笑顔で言いきった。

「いい友人だ!」
「わあ……」

青空は佑虎のことを、すこし不憫(ふびん)に思った。
しかしながら、さっきのおびえかたを見ると、これ以上ふたりの仲をとりもつことも難しいかもしれない。

「じゃあ、恋愛のセンはナシかあ……」
「なんの話だ?」
「ううん……」

青空はため息をつくと、お手玉をして遊んでいたマリアに声をかけた。

「そ、そうだ。誠君から、マリアちゃんからもお話を聞いてって頼まれたんだけれど……、マリアちゃんは、どうしてこの辺りにいるの?」
「えー?」

ぽんぽん、と上手にお手玉を上に投げながら、マリアは言った。

「ナイショだよー!」
「そ、そんな……」

予想ははずれ、マリアからははぐらかされ、青空はがっくりと落ちこんだ。