青空が飛鳥たちと別れて学校から出たところに、誠が走ってやってきた。
「よかった、まだ学校にいたんだね」
「え、あれ? 誠君? 飛鳥ちゃんに用事?」
「ううん、青空に。帰り道はどっち? 途中まで送るよ」
時刻は十九時を過ぎていた。
太陽は落ちて、辺りも暗い。
ぽつりぽつりと配置された電灯の下をとおるたび、ジジジ、と電気のふるえる音が聞こえた。
誠は青空に、いま詩良から聞いてきた話を聞かせた。
真相を聞いた青空が、口もとに手を当てた。
「そんな……、ひどい」
誠は言った。
「鹿波さんの話も聞いてみないとなんとも言えないけれど、越智さんの性格を見ていればわかる。
直接手をくだされたならまだしも、間接的となると……越智さんは十中八九、足をすべらせた自分がわるかったと、結論づける。
こうなると真実を越智さんに告げるだけでは、なんの解決にもならなそうだな」
それから誠は、青空に顔を向けた。
「そうだ。先輩幽霊についての話は聞けた?」
「えっと、マリアちゃんって女の子の幽霊だったよ。でも、それ以外はなにも教えてもらえなくて……、ごめんなさい」
「まさか、本人に会ったの?」
「うん」
あっさりとうなずく青空に、誠が言った。
「まさか、本人に会ってくるとは思わなかったよ……、女の子っていうのは、もしかして小学校の低学年くらいだった?」
「うん、そんな感じだったかな。……えっと、でもどうしてそれを知っているの?」
誠は兎沢から聞いた神隠しの話と、その子どもの年齢がマリアと一致していることを青空に伝えた。
「なにか引っかかるんだよね……、そのマリアって子。
越智さんに幽霊生活の手ほどきができるほどに、幽霊としての知識も経験もあるはずなのに、
自分自身はまだ成仏せずに、この辺りをさ迷っている」
誠たちの真上の電灯が一瞬、カチカチ、と点滅した。
誠は続ける。
「素直に考えれば、『マリア』も成仏するために未練を晴らそうとしている、最中。
それならマリアの未練はなんだろう? もしその神隠しにあったって子がマリアだとしたら……」
「幽霊仲間を増やしてやろうと暗躍(あんやく)していたり?」
とつぜん、誠でも青空でもない声が聞こえた。
ふたりがはっと顔を上げると、目のまえには着物を着た少女の幽霊が浮かんでいた。
誠がとっさに、青空を後ろ手にかばった。
少女の幽霊……マリアはその様子を見て、ぷっとふき出した。
「やだなあ、もう! いまのはじょうだん! そんなことしないよー」
けらけらと笑うマリアを、しかし誠はうたがいのまなざしでにらんだ。
「でも、僕たちのあとをつけてきたんだろう?」
「幽霊が見えるっていうからちょっと興味が出ただけで、危害を加えるつもりなんてぜんぜんないよ。
でもそんなに興味があるなら、今晩、学校に来てみたら?」
マリアはにっこりとほほえんだ。
いちばん近くの電灯の明かりがばつん、と音を立てて消えて、まわりが一気に暗くなった。
その暗がりのなかで、マリアのすがたも同時に見えなくなり、声だけが聞こえた。
「あたしがここにいる理由はたぶん、それでわかるから」