「……だれかに見つかったら、やっぱり怒られちゃうかな?」
青空が、誠に小声で話しかけた。
ふたりはこっそりと、夜の学校に忍びこんでいた。
校庭にいると少し肌寒いが、誠と青空にはそんなことを気にしている余裕もなかった。
警備員に見つからないように低く腰をかがめながら、誠が言った。
「青空、よく家を抜け出せたね」
「マリアちゃんのあの言葉が気になったから……、だいじょうぶ、万が一ばれても、お兄ちゃんがうまくごまかしてくれると思う」
時刻は、すでに二十三時を回っていた。
マリアはともかく、飛鳥は確実に、この学校のどこかにいるはずだ。
「……夜の飛鳥ちゃんって、なにをしてるんだろう。部室棟にいるのかな?」
「とりあえず行ってみようか」
ふたりはこそこそと、部室棟に向かって校庭を歩いていった。
「……いま、警備員じゃあないニンゲンの足音がした。部室棟に向かっているみたいだ」
ぴよ吉が耳をそばだてながら、飛鳥に言った。
「部室棟? ……私、ようすを見てくる。ぴよ吉はここで待っていて」
飛鳥はぴよ吉のもとを離れるとすぐに、誠と青空のすがたを発見することができた。
飛鳥は大声で、ふたりに呼びかけた。
「赤月君! 西森さん! どうしてこんな時間に学校へ?」
「飛鳥ちゃん!」
青空がほっとした表情になり、
「マリアっていう子は?」
となりで誠がたずねた。
「マリア? 今夜はまだ見かけていないが、なぜだ?」
「夕がた、本人に声をかけられたんだ。夜、学校に来ないかって」
「なに? それはどういう意味だ……?」
誠と青空がおたがいの顔を見た。
やはり、からかわれただけだったのだろうか。
そんなふたりに、飛鳥が言った。
「しかし、ちょうどいいところに来てくれた。実は私の友人がけがをしてしまったんだ。
私ではじゅうぶんな手当てをしてやれない。どうか手を貸してくれないか?」
そうして誠と青空は、飛鳥に校庭のすみまで連れていかれた。
ぴよ吉は、そんなふたりを警戒しながらむかえた。
「ぴよ吉! こちらは私の友人の赤月誠君と西森青空さんだ」
「はじめまして」
ぴよ吉のすがたにおどろきながらも、誠と青空は頭をさげてあいさつをした。
「ふたりとも、こちらはぴよ吉だ」
青空はしゃがむと、ぴよ吉のつばさにそっと触れた。
「ひどいけが……、一度、お医者さんに見てもらったほうが……」
「獣医にでも見せるのかよ?」
青空の言葉に、ぴよ吉が鼻で笑った。
そんなぴよ吉の態度にはめげずに、青空が言った。
「と、とりあえず、水で傷口を洗い流して……、あっ、保健室にならなにか消毒できるものがあるかも……」
「……待て」
そのとき、ぴよ吉がつばさで青空の動きを止めた。
校庭にゆれる、懐中電灯の明かりが見えたからだった。
「……だれだ? まずい……、こっちに来るぞ」
「で、でも、隠れる場所はどこにも……」
そうこうしているあいだに、その光はとうとう飛鳥たちのすぐ前までやってきた。
まばゆい光は、誠たちのすがたを照らした。
「……やっぱり、おまえらか……」
懐中電灯を手にしていたのは、数学教師の狐塚だった。