エピローグ


越智飛鳥が『成仏』して、あっという間に数週間が過ぎていった。
狩谷佑虎はというと、あの日から一度も学校には来ていない。

学校に向かう車のなか、舞は誠の顔をのぞきこんで言った。

「お兄ちゃん、最近は調子がいいみたい。なんだか"憑きもの"が落ちたような表情をしているわ」
「……そうかな?」
「だって夜に家をこっそり抜け出したりしていたあのころは、なんだかこわい顔をしていたもの」

それを聞いて、誠があわてて運転手のようすをうかがいながら、口もとに人さし指を当てた。

「わ、ちょ、ちょっと、舞。……僕が家を抜け出したこと、気づいていたのか……」
「当たりまえでしょう?」

舞がつんと澄ました顔で言ったところで、車が学校に到着した。
車をおりると、今日も青空が校門前で誠たちを待っていた。

「ごきげんよう、青空!」

舞はにっこり笑うと、青空と腕を組んだ。
青空と舞のふたりはいまではすっかり仲よくなって、まるで姉妹のようだった。

「青空、今日の放課後はなにをして遊ぶ?」
「えっと……一対一のゲームじゃあないのがいいなあ……、誠君も舞ちゃんも、すごく強いんだもん……」

青空が困ったように笑った。
それからふり返ると、誠に声をかけた。

「誠君は、なにかある? ……あ、でも、今日遊ぶのは、ニワトリ小屋のお掃除をしてからだね」

……校庭の地面には、まっ白な太陽の光が容赦なく照りつけている。
地面から照り返す光もあいまって、気温はだいぶ温かく感じる。

「やべえ、遅刻した! 職員会議に間に合わねえッ!!」

狐塚がパンをくわえながら、誠たちの横を通り過ぎていった。
どちらが学生かわからないそのすがたに、誠たちは顔を見合わせると、くすくすと笑いあった。

……誠と舞しかいなかった元ミステリ同好会は、あの日からほんのすこしだけにぎやかになった。

青空の弁当にはコンニャク料理が増え、狐塚も兎沢もあいかわらずあんな調子で、 もこなと詩良はすこしだけおとなしくなったようだった。

変わったり変わらなかったりを繰り返して、
今年ももうすぐ、夏が来る。

そしてきっと今年の夏から、たずねる場所がひとつ増えるだろう、と誠は思う。



もこなは、佑虎の家のまえに立っていた。家のカーテンはすべて閉まっている。

ふいに、もこなのかばんのなかからメールの着信音が聞こえた。
携帯を取り出して確認してみると、メールは詩良から送られたものだった。

『あんまりひとりで抱えこむなよ?』

もこなは小さく苦笑して、携帯電話をふたたび、かばんにしまった。

ほんとうは、すごくこわい。

最後に幽霊の飛鳥に声をかけたとき。
あのときと同じように、いまもふるえている。

……私はいま、佑虎に体操服の話を伝えようとしている。

きっとこの告白をすれば、確実に佑虎にはきらわれるだろう。
だってこれはただの告白ではなく、罪の告白なのだ。

でも。
いつまでも逃げているわけにもいかない。

行動を起こしていかなければ。
だって私たちはどれだけまちがいを犯しても、生きているんだから。

もこなはえりもとを正すと、佑虎の家のチャイムを鳴らした。


おわり
2012/10/15 擱筆
2013/05/14 連載終了
2015/09/21 加筆修正
2018/11/07 加筆修正、レイアウト変更