ライブイベントは中止となった。
ライブ会場は、混乱と怒号が入り乱れ、パニック状態だった。
楽屋ではアロマちゃんがケガの手当てを受けていて、私はじゃまにならないように廊下に出た。
「とりあえず、深神先生に連絡しなきゃ……」
私が深神先生の番号に電話をかけると、思いがけず、すぐうしろから呼び出し音が聞こえた。
おどろいてふり返ると、そこにはなんと深神先生が立っていた。
「み、深神先生!?」
「たいへんなことになってしまったな」
深神先生は帽子のつばをつまんで、私を見下ろした。
「アロマちゃんがケガをしたそうだな」
「そ、そうなんです……、これも、大峠社長を殺した犯人のしわざですか?」
「おそらくはな。……信念は強く保身は考えない、やっかいな相手だ」
深神先生がひとりごとのようにつぶやいてから、顔をあげた。
「ひとまずここから離れよう。ここにいても、もうできることはないだろうしな」