ココアの味(c)
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目が覚めると、私はひんやりとした床のうえに転がっていた。

「う……、あたま痛い……」

立ち上がろうとして、手足が動かないことに気がつく。
どうやら、縄のようなもので縛られているみたいだった。

「あ、あれ? 私、どうして……」

たしか私は、影平さんの車の助手席に乗っていたはずだ。
それでココアを飲んで、それからなんだか眠くなって……

「……あれ、目が覚めるのがはやいね。たまちゃん、すこししか飲みものに口をつけていなかったからなあ」

そんな冷たい声が響いた。
私があわてて視線を向けると、そこには私を見下ろしている影平さんが立っていた。

「か、影平さん……? どうしてこんなことを?」
「さといちゃんをおびき出すためのおとりだよ」

携帯電話に耳を当てながら、影平さんが言った。

「……相変わらず、さといちゃんの電話は電源が切られたままだ。きみの声を聞かせたら、すぐに飛んで来ると思ったんだけれど」

……ここはどこだろう。
首を回して、辺りを確認してみる。

床はコンクリートだ。天井は異様に高い。
声の響きかたからして、広さも相当だ。大きなコンテナがいくつも見えることから考えても、どこかの倉庫のなかのようだ。

「うその手紙を書いたのは、影平さんだったんですね。……もしかして、大峠社長や、アロマちゃんのことも……?」
「隠したってしょうがないから、認めるよ。……そのとおり、どれも俺が犯人だ」

影平さんが口の端をゆがめて笑った。

影平さんが、大峠社長を殺したんだ。
……そう考えると、とたんにこの状況が恐ろしくなった。

……もしかして……、私も殺されちゃうの?

「……どうして大峠社長を殺したんですか?」
「さといちゃんには、ある“ひみつ”があるんだ。世間にばれたら、二度と芸能界にはもどれないようなひみつがね。
大峠社長は、あろうことかそのひみつを暴露しようと考えた。だから俺はさといちゃんのためを思って、大峠社長を殺したんだ。
……それなのにッ!」

影平さんは、ダンッ! と床をふみ鳴らした。

「事実を知ったさといちゃんが、それでもそのひみつを公開すると言い出したんだ!
だから、脅したんだよ。もしひみつを公開するなら、俺は殺人事件の犯人がさといちゃんだと証言するってね」

深神先生の言っていたとおりだった。
だからさとちゃんは、影平さんが犯人だという証拠が見つかるまで、どこかに隠れていたんだ!

影平さんが親指のつめをかみながら言った。

「今後、さといちゃんがふらりと公衆のまえに現れて、あのひみつをばらしたりしたらたまらないんだよ。
だからきみを人質にして、そんな過ちが起こらないように約束させようってわけさ」
「人を殺してまでも守らなくちゃいけないひみつって……、いったいなんですか?」
「そこまで言ったらひみつじゃあなくなるでしょ? たまちゃん、もっと頭を使おうよ」

影平さんがあきれたように、深いため息をつく。

私は深神先生に渡されていた携帯電話の存在を思い出した。
電話は、スカートのポケットのなかに入っているはずだ。

なんとか隙を見て、電話をかけられないだろうか。
私が身をよじっていると、影平さんが私のようすに気がついたようだった。

「……もしかして、これを探してる?」

影平さんはそう言って、スーツのポケットから携帯電話を取り出した。
それはまちがいなく、深神先生から渡されていたあの携帯電話だった。



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