会場には、多くの報道陣が集まっていた。
私はそのいちばんうしろで、さとちゃんのすがたを見守っていた。
「まず、このたびは多くのかたにご心配とご迷惑をおかけしたことを、深くお詫び申し上げます」
さとちゃんは、長いあいだ、頭を下げたままだった。
カメラのフラッシュがたかれたあと、報道陣から質問の声があがった。
「夢追さんのマネージャーが逮捕されたということですが、そのことについてどうお考えですか?」
「亡くなった大峠社長は、いままで私のことを大切に育ててくださった恩人で、私にとっても父親のような存在でした。そんな社長を私のマネージャーが手にかけたことはとても悲しく、悔しく思います」
「動機について心当たりは?」
また、べつの記者が質問した。
「実は、そのことについて、今夜は皆さまに集まっていただきました」
さとちゃんは、しっかりとした口調で言った。
「この混乱のなか、さらにご迷惑をおかけしてしまうのは承知のうえです。しかしながら、大峠社長はこのことを公表することを、亡くなる間際まで強く望んでいたそうです。そして望んだからこそ、事実を隠そうとしたマネージャーの手によって、社長は最悪の事態に巻きこまれてしまいました。私は今後、このような悲しいことが起こらないためにも、そして大峠社長と私のためにも、隠しごとはしないことに決めました」
さとちゃんはおもむろに、なにかを机のしたから取り出した。
……それは、なんのへんてつもない、ただのハサミだった。
カメラのフラッシュがより一層、激しくたかれ、一瞬辺りが真っ白になって、さとちゃんのすがたが見えなくなった。
やがてフラッシュの光がすこしだけ落ち着いてくると、さとちゃんはそのハサミを構えた。
ざわつく会場のなか、さとちゃんはそのハサミを自分に向けて——
——ばさり、と、あの綺麗な髪を切った。
呆気(あっけ)にとられる報道陣のまえで、さとちゃんはざくり、ざくり、と肩のうえまで髪をきりそろえると、やがてまっすぐに顔をあげた。
「ファンの皆さま、関係者の皆さま。いままで嘘をついていて、申し訳ありませんでした」
さとちゃんの目に迷いはない。
私は、なんだかいま、さとちゃんと目を合わせているような気がした。
(……さとちゃん、がんばって)
どんなひみつかわからないけれど。
私はさとちゃんを応援しているよ。いままでも、これからも、ずっと——
さとちゃんの口が、ゆっくりと動く。
「……僕、ほんとうは、男なんです」