灯里(あかり)学園高等部、二月のある日。
「はい、ホームルームはここまで。みなさん、気をつけて下校してください」
担任教師のその言葉で、クラスメイトたちの顔に、ようやく生気がもどってくる。
がたん、ガサゴソ、がやがや……と、教室のなかは、とたんにさわがしくなった。
ぼく、こと真暗(まくら)牧志は、そんなさわがしい教室の片すみで、たったいま配られた進路調査用紙をぼんやりとながめていた。
高校を卒業したあとに、自分がなにをするつもりなのかを書かなければいけないらしい。
ぼくたちはこの春、高校二年生になる。
卒業なんてまだまだ先のことだと思っていたけれど、この一年間はあっという間だった。
どんなにその気がなくても、あと二年を同じように過ごせば、たちまち高校のそとへと放り出されてしまう。
クラスメイトたちのなかには、すでに志望校を決めている者もいた。
しかし、みんなの卒業後の期待を耳にしては、ぼくのこころは逆に、どんどん暗がりへと落ちていくのだった。
「で、牧志はどうするつもりなんだ?」
同じクラスの白河くんが、ぼくに話しかけてきた。
……ぼくはよく、「いつも眠そうな顔をしている」と人に指摘される。
白河くんはというとぼくと正反対で、「いつもさわやか」が人のかたちになったような子だ。
彼の家は音楽界の名家であり、とんでもない資産家……つまりお金持ちでもある。
しかし、白河くんはそのことを鼻にかけない明るい性格で、友だちも多かった。
そんな、クラスでも人気者の白河くんは、なぜかぼくと仲よくしてくれている。
放課後には昨日みたいに、ぼくの部屋に遊びにくることさえあるのだった。
進路調査用紙をじっと見つめながら、ぼくは言った。
「……卒業後は、就職しようかと思ってる。学びたいことも、特にはないし」
ぼくがそう言うと、白河くんがまるで役者のような大きな身ぶりで嘆いてみせた。
「そうじゃないだろ!? ……いや! その話もたしかに大事な問題のひとつだ。でもいまは、もっと近くに大きな問題があったはずだ!」
白河くんが、そこで急に声のトーンを落とし、ぼくの耳もとでささやいた。
「あの予告状のことだよ。……きのう、牧志の部屋の郵便受けに入っていたやつ!」
言われて思い出す。
そうだった。
そういえばきのう、そんなものも受け取ってしまっていたんだった。
ぼくも自然と小さな声になりながら、白河くんに言った。
「ああ、あの泥棒からの……」
「あんな予告状を送ってくる『泥棒』があるか! ああいうのを送ってくるのは、怪盗っていうんだよ、カ・イ・ト・ウ!」
「……その……『怪盗』からの予告状は、今日の帰りに警察に届けようかと……」
「ばかッ!」
なぜか、ぼくは白河くんに怒られた。
さっきはたしかに、ぼくにも気の利かない部分があったけれど、
いま怒られたのは納得がいかなかったので、言葉をつけ足してみる。
「だって、あれはまちがいの予告状だよ。……十中八九、ぼくの部屋の、おとなりさんへのね」