どうやらとびらの向こう側の面(めん)に、
棒状の金属がぶつかり合って鳴る仕組みのドアベルが取りつけてあったらしい。
りんごんと大きな音で鳴るドアベルの音を聞きながら、ぼくは違和感に気がついた。
ひとつひとつの音の高さが似通っていて、ふつうのドアベルよりも音の幅がせまいように感じたのだ。
さすがにドアベルが用意されているとは思っていなかったようで、白河くんがおどろいて身を引いた。
そこへ、すぐに受付のお姉さんが駆けつけてきた。
「お客さま、どうかされましたか? そちらは立ち入り禁止となっております」
「すみません、お手洗いに行こうと思ったら、まちがえちゃって……」
白河くんがとっさに言いわけをした。
そのあととつぜん、「あ!」と大きな声をあげた。
「お姉さんの顔、ようやく思い出した! まえにペットショップで働いていませんでした?」
言われてお姉さんはじっと白河くんのことを見ると、思い出したように笑顔を作った。
「ああ、あのときの……! たしか、腰を抜かしてしまった女性をむかえにいらした……」
……それ、どんなシチュエーションなんだろ。
しかし、白河くんのひとみが一瞬だけ、きらりと光った。
どうやらお姉さんの気をそらす糸口を見いだしたようだった。
「やっぱり! あっれー、すごい偶然だなー! お姉さん、転職したんですか?」
「私はいろんな仕事をしてみたくて、あちこちふらふらしているんです。
あ、でもないしょですよ? 職場が長続きしないって、大きなマイナスポイントですから」
「そんなこと言ったって、お姉さんみたいな美人ならどこでもやとってもらえるだろー?」
白河くんはここぞとばかりに、ぐいぐいとお姉さんに話しかけていく。
知らない人とも平気で話を広げられるのは、白河くんのすごいところのひとつだ。
ぼくはというと、その会話にはまったく入りこめないし、このまま立っているのもなんだか決まりがわるい。
ふたりの会話が終わるまで、ぼくは休憩用の椅子に座って待つことにした。
あの三つ編みの女の子は、この騒動にもまったく動じずに、黙々(もくもく)と本を読み続けていた。
しかし、ぼくが女の子のとなりに腰をおろすと、女の子はまるでひとりごとのように、ぼそりとつぶやいた。
「……どうして、本邸へ行こうと?」
ずばり聞かれて、ぼくはとまどった。
女の子は続ける。
「だれにも言わないから、理由を教えて」
ぼくは女の子を見た。
女の子も今度はきちんと顔をあげると、ぼくと目を合わせて、うすくほほえんだ。