ぼくはしかたなく彼女に事情を説明すると、かばんに入れてきたあの絵葉書を取り出して、女の子に見せた。
「……怪盗からの、予告状……」
女の子は絵葉書を手に取り、目を細めてつぶやいた。
「……おもしろそう」
女の子の表情にはあまり変化が見られなかったけれど、その瞳だけは、らんらんと輝きを増していくのがわかった。
ぼくはそのようすを見て、首を横にふった。
「でも、ぼくたちにできることなんてなにもないよ。
米坂さんに犯行予告のことを伝えても、もしほんとうに隠しているなら絵画を持っていないふりをされるだけだ。
それに予告状を送りつけてくるくらいに、うでに自信のある泥……怪盗だったら、どんな状況でも盗んでいくと思う」
「……明日の十七時」
そのとき、女の子が小さな声で言った。
「米坂邸の時計を修理しに、人が来るわ。使用人はそれで完全に気を取られるはず。
その直前に向こう側からドアベルをはずしておくから、あのとびらからこっそり入って、二階の一番北側の部屋へ」
「……え」
とつぜんの細かい指示にぼくはおどろいて、女の子を見た。
ものしずかで感情の読みにくい女の子の表情は、どこかミステリアスだ。
「『米坂』くるみ」
女の子はまた、うっすらと笑った。
「……それが、私の名前よ」