さいわいなことに、ほとんどの店のシャッターは開いていた。
僕たちはまず、みずきの洋服を調達することにした。
この世界には僕たちのほかにだれもいないとは言え、みずきは女の子だ。
いつまでも僕の服を着せているわけにはいかないし、なにより男物の服を着ているみずきを見ていることが、つらかった。
なぜなら男物を着ている女の子を見ていると、どうしても緋色を思い出してしまうからだった。
「蒼太さん」
ふいに、みずきに呼ばれた。
はっとして顔を上げると、あわい水色のワンピースを着たみずきが僕の目のまえにいた。
「これなんて、どうですか? 似合うでしょうか」
華奢(きゃしゃ)な矮躯(わいく)に、その水色はよく映えた。
灰色の世界で、みずきだけが鮮やかに発色している。
「うん、すごくよく似合ってるよ。
まあいつでも洗濯はできるけれど、もう何着か持っていったほうがいいかもしれない」
「そうですね。うーん、どれにしようかなあ」
みずきは楽しそうに、服を選んでいる。
……慣れてはいけないとわかっていても、こちらの世界で、ずいぶんと気楽に過ごせるようになってきていた。
しかし、食料の問題がある。しばらくのあいだはレトルトの食品でもなんとかなるだろうが、それでもいつかは腐ってしまうだろう。
それよりも、消費も処理もされない食料やゴミが全て腐敗したらこの世界はどうなってしまうのだろうか?
そもそも電気はどうやって供給されているのだろう?
だれも人間がいないという点をのぞけば、ここは僕たちが知っている街と、ほとんど変わりなく機能し過ぎている。
「あ、ええと、蒼太さん」
みずきはふたたび僕を呼ぶと、自身の両手の人差しを合わせて、すこしもじもじとした。
「私、ちょっとお手洗いに行ってきてもいいですか?」
「ああ、うん。いそがなくて平気だからね」
みずきはぺこ、と頭を下げたあと、そそくさとトイレの方向へと駆けていった。
僕は店員のいない店のなかの商品をながめながら、みずきが帰ってくるのを待っていた。
そのとき、僕のポケットのなかから、とつぜん音楽が流れ出した。
それは、僕の携帯電話の着信メロディだった。