7月5日(土) 13時03分(a)
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僕は、深神探偵事務所のソファの上で目を覚ました。
頭が重いのはともかく、身体が痛いのはソファで寝ていたせいだろう。
僕は、鉛(なまり)のように重い上半身を起こした。

身体の上には、ブランケットがかけられている。
……眠っているあいだに、だれかがかけてくれたのだろうか?

壁かけ時計は、一時を示していた。
外は明るいので、つまり昼間の一時ということだろう。

「寝過ぎだぞ、蒼太」

急に声をかけられて、おどろいた。
声をかけてきたのは、ハルカだった。彼はちょうど、僕のいる待合室に入ってきたところだった。
しかし、いつもひょうひょうとしている彼の表情が、今日はどことなく暗い。

「……緋色と深神さんは?」

僕はハルカにたずねながら、携帯電話を確認した。

日付は七月五日だった。
つまりあの七月四日……緋色と遊園地で遊び、
この探偵事務所にやってきた日から、"こちらの世界"は続いているようだ。

どうやら僕は、ふたつの生活を同時進行させている。
しかしどちらかが夢だったとしても、いまの僕にはもう区別できなかったし、分別する勇気もなかった。

「緋色は行方不明だ。深神さんがいま探している」
「行方不明だって……?」

ハルカは僕の座っている対面のソファに腰を下ろし、

「まあ、飲めよ」

言いながら僕の前にコーヒー缶を置いた。

彼の前にはノートパソコンが置かれている。
背面にペンギンのシールが貼ってあるそのパソコンは、ハルカの愛用品だった。

「俺も緋色もわけありだから、事故っているといろいろと面倒なんだ。
でも、よほどのことがない限りは、こんなに長時間、連絡が取れないはずはないんだが」
「それはつまり……事故じゃなくて、……事件に巻きこまれているのかもしれないってこと?」
「少なくとも、深神さんはそう考えている」

ハルカは言った。

「深神さんの足手まといにはなりたくないからな、俺はここで留守番しているってわけ」

そうして彼がノートパソコンのキーボードに触れると、ピロ、と小さな電子音が鳴った。

「深神さんが帰ってくるまでは、蒼太もここにいろってさ」
「それはどうして?」
「万が一にでも、厄介(やっかい)ごとに巻き込まれる確率を減らすためだよ」

その心づかいはありがたかった。
マンションに帰るよりも、ここにいたほうが気が楽だ。

なによりも、いまは動きたくない。
ひとりにもなりたくない。

「あーー、ただ、することがないと余計いらいらするんだよなあ」
「なあ、それなら少し調べものをしてもらってもいいかな」
「んー? いいぜ。いったいなにを調べて欲しいんだ」

座り直してこちらを見てくるハルカと目を合わせずに、僕は言う。

「村崎みずきっていう女子のこと。都内の高校に通っている二年生」
「なんだ、そこまでわかっているなら、調べるほどのことでもないじゃんか」

言いながらもハルカはすばやくキーボードに指を滑らせた。
そして最後にたん、とキーを弾くと、ディスプレイをこちら側に向けた。

「こいつかな、村崎みずき。……あー、ずいぶん金持ちのところの娘なんだなあ」



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