僕は足早に歩きながら、緋色がすがたを消した理由について考えた。
緋色とハルカは、深神さんが信頼をよせている助手だ。
深神さんがなんらかの仕事を緋色に手伝わせていてもおかしくはない。
そう考えると話に筋はとおる。
深神さんには、僕とみずきを接触させたくない事情があるように見える。
だから緋色が『失踪した』といつわって、僕を事務所に閉じ込めた上で、みずきを探しているのでは?
理由は、僕より先に、みずきと接触するため。
僕はみずきの通っているはずの高校へ向かおうと池袋駅に向かっていたが、
今日は土曜日だということに思い当たった。
土曜日となると、この時間に高校にいる可能性は低い。
そもそもそんな場所にいたのなら、すぐに深神さんが見つけてしまうだろう。
いまだに深神さんとみずきが接触していないのだとしたら、それは彼女が家や学校にいなかった場合に限る。
そう、たとえばみずきが深神さんから逃れて、身を隠しているとしたら。
僕は足を止めた。
「……僕のマンション……!」
僕と同じように、七月七日の記憶があるのなら、僕のマンションのことも知っているはずだ。
僕がみずきだったら、きっとあの場所を隠れ場所に選ぶだろう。
駅に背を向け、僕は自分のマンションを目指して走り出す。
大きな本屋にバイト先のコンビニの前を次々に通り過ぎ、僕はようやくマンションの前に到着した。
大きく息を吸いこみ、自分の両頬をぱん、と叩く。
「……行くぞ」
僕は階段で四階まであがると、自分の部屋の前までゆっくりと歩いて行った。
廊下から見える外の空は青い。街からの雑音も途切れない。
……だいじょうぶだ。この世界に、僕はひとりではない。
自分の部屋の扉のドアノブに手をかけたまま、扉に耳を押しつけてみた。
扉の向こうから物音はしなかったが、扉の取っ手を下に下ろすと、なんの抵抗もなくかちり、と扉が開いたのだった。