面会時間の開始時刻である九時ちょうどに病室に入ってきたのは、ハルカと、僕の妹の西森青空(あおぞら)だった。
ハルカは気さくに、左手をひらりと軽く上げた。
「よっ! 見舞いに来たぞー」
「来たぞー」
青空がハルカの真似をして、同じように笑顔で左手を上げる。
青空はいま、高校生だ。今日は月曜日だから学校があるはずだけれど、今日は私服を着ている。
見舞いを口実に、休むつもりなのかもしれない。
「だいじょうぶ、お兄ちゃん? 階段から落ちて、大けがしたらしいけれど」
僕の顔をのぞきこむ青空のうしろで、ハルカが僕の目をじり、と見つめた。
どうやら話を合わせろということらしい。
……まあたしかに、女の子に頭をゴルフクラブでなぐられてけがをした、なんて言ったら、
心配するどころのさわぎじゃあなくなるだろう。
「あ、ああ、あんな高いところから落ちるなんて、僕もおどろいたよ……」
僕がそう言うと、青空は腰に両手を当てた。
「もー、しっかりしてよ、お兄ちゃん! ……でも思ったより、元気そうでよかった。もう、今日には退院できるんだよね?」
「ああ、まあね」
そこでハルカが、ふと席を立った。
「オレ、なにか飲みものを買ってくるよ」
僕はそんなハルカに、あのとき忠告を聞かなかったことをあやまりたい、と思った。
しかし、青空が僕が階段から落ちてけがをしたと思っている以上は、彼女のまえではなにも言えない。
……もしかするとハルカはこれを、狙ったのかもしれないけれど。
「……お兄ちゃん」
ハルカが病室を出て行ってから、青空は僕のベッドのすみに腰をかけた。
「……緋色ちゃん、行方不明って、ハルカさんから聞いたよ」
「……うん」
「もしかして、お兄ちゃんのけがと、なにか関係があるの?」
僕はおし黙った。
話せば長くなるし、そもそもどこからどう説明していいのか、わからなかった。
青空はぎゅ、と僕を抱きしめた。
「無理してなにか言わなくてもいいよ。でも、私にできることがあったら、いつでも言ってね」
「……それ、ハルカにも言われたな」
「そう? 私、ハルカさんに似てきちゃったのかな?」
青空が僕に抱きついたまま、ふふ、と笑ったところにハルカがなにやらあわててもどってきた。
「蒼太! ……緋色が見つかったって! 意識はないけれど生きてるって……、……ん? あれ?」
僕たちのようすを見て、ハルカが固まった。
「オレ、もしかしておじゃました?」