つぎの日の朝。
僕が教室に入るとすぐに、ミカミが近づいてきた。
「今日、ピアノの音がするから見に行ってみたら、第一体育室にきのうの調律師がいた」
「ああ、雀さんだね。今日は縫針先生が体育室のピアノを使うらしくて、それで調律することになったみたい」
「そういうことか。ピアノも手入れがたいへんなんだな」
ミカミのうしろから、日高さんが顔を出した。
「ふたりとも、おはよっ! あと、きのうはどうもありがとう」
ぺこりと頭を下げると、日高さんは自分の親指と人差し指をくっつけて、「まる」を作った。
「今日はちゃんと、小屋のなかにニワトリがいました!」
「そう何度も逃がされてたまるか」
ため息をつくミカミを見て、日高さんが小さく首をかしげた。
「ミカミくんって……、もしかして、動物がきらい?」
「べつにきらいというわけではない」
ぶっきらぼうに、ミカミは言った。
「ただ昔から、向こうにきらわれることが多いだけだ」
「あー……」
日高さんが納得したような、でも気を使っているような、なんとも言えない表情をした。
ミカミのするどい目つきは、ときに人間さえもひるませる。
それが動物相手なら、なおさら警戒されるだろう。
「向こうがいやがっているのに、無理にこちらから近づいてストレスを与える必要もない」
そう言うと、ミカミが一度自分の席にもどって、なにかを手にしてすぐにもどってきた。
「だから、日高。おまえがこれをあのニワトリたちにやってくれ」
「……それは?」
僕がたずね、日高さんは手渡されたビニール袋をのぞきこんで、声をあげた。
「あ……これ、キャベツ?」
「あいつらは、それが好きなんだろう?」
いつになくムスッとした顔で、ミカミは言った。
……結局、ミカミも動物が好きで、ほんとうはかまいたくてしょうがないらしかった。