「彩人くーん!」
午前の授業が終わって、昼休みの時間。
僕の教室にやって来たのは、なんと調律師の雀さんだった。
僕があわてて教室の入り口まで行くと、雀さんは小首をかしげてみせた。
「えへへ、来ちゃった」
「……そんな、女の子みたいに言われても……」
苦笑する僕にはおかまいなしに、雀さんは教室のなかをのぞきこみ、
「あっ、きのうの子もいる。やっほーっ」
とミカミに向かって、にこやかに手をふった。
クラスメイトたちは、「だれ、あれ?」「だれかのお兄さん?」とひそひそとうわさをし始めたので、
僕はあわてて雀さんを教室のそとに押し出した。
「ちょ、ちょっと、雀さん。クラスの子たちがびっくりしますって。……ピアノの調律は終わったんですか?」
「うん。まだまだ気になるところはあるけれど、それはまた、べつの日にね」
それから雀さんはふと、困った顔をした。
「それより彩人くん、縫針先生を見なかった?
きのう、お昼までには第一体育室に来るって約束だったのに、まだ会えていないんだ。駐車場には、縫針先生の車があるのに……」
「ええ? それはたしかに、おかしいですね」
そこにミカミがやってきた。
「彩人、どうかしたのか?」
僕はミカミに、縫針先生が約束の時間になっても、まだ現れていないということを説明した。
「ふむ。すこし探してみるか」
「うん、そうだね。……そういえば、かなでちゃんも月見坂学園の初等部に通っているんだ。
もしかすると、そっちのほうに行っているのかも……」
「初等部に行くなら、そのまえにもう一度、体育室も確認できるな」
そうして僕とミカミ、雀さんの三人で、縫針先生を探すことになった。