特別活動室が授業で使われたという話は、いままでに聞いたことがない。
なにに使われることもなく、ふだんは遊ばせてあるだけの、ただの空室だ。
特別活動室は、D棟の一階にあった。
僕たちはすぐに駆けつけて、とびらを開けた。
縫針先生は床の上に、横向きになって倒れていた。
……その目を大きく、見開いたまま。
部屋の入り口で立ちつくした僕たちのなかで、まっ先に言葉を発したのは、雀さんだった。
「ぼ、……僕、すぐに人を呼んでくるよ! きみたちはそれ以上、入らないで!」
雀さんがそう言うと、すぐにどこかに走って行った。
日高さんは部屋のそとに座りこみ、泣いている。
僕はあらためて、部屋のなかを見た。
長机と椅子、そしてホワイトボードが置いてあるだけの、殺風景な部屋だ。
掃除は定期的にきちんとされているらしく、ほこりっぽさはない。
部屋の窓が開いていて、カーテンが揺れている。
……縫針先生の死因はたぶん、背中に刺さったままの包丁だ。
日高さんが『殺されている』と言ったのも、うなずける。
刃物で刺されたらもっと血が出るものかと思っていたけれど、血だまりはできていない。
縫針先生の近くには、椅子が転がっていた。
……座っていたところを、刺されたのだろうか?
そのとき、ミカミが動いた。
ミカミは僕の横をすり抜けると、物怖じすることもなく部屋のなかへと入っていった。
「ちょ、ちょっと、ミカミ!」
あわてて声をかけるも、ミカミはその歩みを止めない。
僕も思わず、ミカミのあとに続いて、部屋のなかに足を踏み入れてしまった。
「この位置に、この角度。包丁の刃先が肺に達して、即死だろう」
縫針先生のそばでかがむと、ミカミが言った。
「肋骨を避けるために、刃先を横に向けて刺している。衝動的な犯行ではなく、犯人はいたって冷静だったということだ。
……包丁を残すことで、出血も最小限におさえられている。犯人は、返り血も浴びずにすんだだろう」
そう言うミカミのほうがあまりにも冷静で、僕はあぜんとした。
ミカミは、ポケットからハンカチを取り出した。
そして床にはいつくばると、なにかを拾い上げた。
「これは、なんだ? 短い針金のような……」
「……ミカミはいったい、何者なの?」
たんたんとあたりを調べていくミカミを見て、思わず、僕の口からそう声が出た。
「人が、死んでいるんだぞ」
それも、きのう会ったばかりの顔なじみの人が、……縫針先生が、目のまえで殺されているというのに。
「どうして、そんなに……」
「人が死んでいるところも、人が死んでいくところも、いままでに何度も見たことがある」
なんでもないことのように、ミカミは言った。
それから立ち上がって、すこしだけ口もとをゆるめた。
「そして私が何者かという問いの答えは、『彩人の親友』。それだけだ」
……僕には、わけがわからなかった。