そのとき、がらがらがら、と体育室のとびらが開いた。
僕たちがおどろいてふり向くと、そこには見たことのない中年の男が立っていた。
その男を見て、ミカミが言った。
「楯岡(たておか)刑事か」
僕たちは壇上にいるため、自然と彼を見下ろすかたちになる。
ミカミの不敵なその態度は、さながら勇者を迎える魔王のようだった。
「きのうは世話になったな」
「あ、ああ、なんだ、話し声がすると思ったら、ミカミくんだったのか……」
楯岡刑事と呼ばれた人は、ばつがわるそうに言った。
もとより疲れた目もとをしている人のようだが、
いまはあきらかに、「会いたくない人物とエンカウントしてしまった」という顔をしていた。
どうやらこの人が、今朝、ミカミが言っていた刑事らしい。
……いったいミカミは彼に、どんな『アドバイス』をしたのだろうか。
「ちょうどよかった。捜査の進展はあったか?」
ミカミが片手を床について、ひらりと壇上から飛び降りた。
だん、というミカミが着地する音に、楯岡刑事はびくり、とからだをふるわせる。
「そ、それはだな、うーん」
「あとからわかるようなことをいまかくしても、意味はないぞ?」
つかつかと楯岡刑事に歩み寄るミカミ。
……なんで刑事相手にそんなに強気でいられるんだ。
ミカミが楯岡刑事を圧倒しているあいだ、僕はおとなしく壇上の横にかけてあった階段を使って、したまで降りた。
「……しかたない。ここだけの話だぞ」
ミカミになんらかの弱みをにぎられているのだろうか、楯岡刑事は肩を落として、小声で言った。
「交友関係から見ても、きのう、ここに来ていたピアノ調律師の雀一崇が第一容疑者として、捜査上には上がっている。
なんでも、通常の調律の頻度よりも多く、被害者の家を出入りしていたらしいからな。しかし……」
「なんだ? もしかして、雀一崇になにかあったのか?」
ミカミがつめ寄ると、楯岡刑事は観念したように、頭をかいた。
「……その容疑者が、どうも昨晩から行方不明なんだ」