「そう……、いい組み合わせね、あなたたち」
次の日の火曜日、登校まえ。
いつもの高台で、僕からことの経緯を聞いた翠が言った。
「私やオワルよりも、和也とハジメのほうが、このうわさ話の解決には向いていると思っていたわ。
おそらく私には、穂坂さんを傷つけないように事態を丸く収めることは、できなかった」
「……やっぱり、ピアノの音の主が穂坂さんだということも、知っていたんだね」
穂坂さんの名前は、翠のまえでも伏せていた。
それでもあっさりと翠の口から穂坂さんの名前が出てくると、聞き込みをしてまで調べた僕の立場としては、少々かなしい。
「どうして穂坂さんのことを知っていたんだ? 翠、オワル以外のクラスメイトとは、ほとんど喋らないだろ」
しかし翠は僕の顔を見て、数度瞬いた。
「その質問には、答えないわ」
翠はじっと、僕のことを見つめている。
僕には、彼女のその視線の意味がわからないけれど、
そのふしぎな瞳の色はどこか、きのう見たポートレートの彼女を思い出させた。
そのとき、ずっととなりにいた紺が翠の手にしていた写真を覗き込んで、きゃっ、とすぐに顔を両手で覆った。
「どうして霧吹きを使うと、お化けが写るの? お化けはお水が好きなの?」
僕はかがむと、紺に微笑みかけた。
「そうだよ、紺。だから暗いところで、霧吹きを使っちゃいけないよ」
「う、うん! わかった!」
「……和也、紺がひとりでお風呂に入れなくなるから、ほどほどにね」
そう言った翠は、もういつもと同じ、彼女の表情にもどっていた。
砂辺さんに写真を見せてから、A組の教室はちょっとした騒ぎとなった。
「キャー、やっぱりあの音楽室には、出るんだあ!」
ちらりと見ると、翠とオワルは騒ぎの外で知らんぷりを決め込んでいる。
……どうやら、助けてくれる気はないらしい。
盛り上がるみんなのまえで、僕は小さく咳払いをした。
「……だけど、このことはA組のなかだけの、秘密にしてほしいんだ。
これ以上大きな騒ぎにしたくないし、夜中に学校に忍び込んだなんてばれたら、僕が先生に怒られるから」
「任せろよ、みんな口は固いもんな!」
「おー!」
一抹の不安は残るところだけれど、まあ、もう大丈夫だろう。
僕は砂辺さんから写真を返してもらうと、A組の教室を後にして、廊下に出た。
そして隣のB組に入ろうとしたところで、A組の女子生徒に呼び止められた。
「あの……、葵君」
肩まで伸ばした、すこし癖のある髪に、ヘアバンド。
その女子生徒は、あのピアノの音の犯人、穂坂さんだった。
「話があるの。二限目が終わったら、下駄箱のまえに来て」
穂坂さんはそれだけ言うと、そそくさとA組の教室に帰って行った。