マフラー(a)


古山高等学校では、十二月にクラス対抗発表会なるものがある。

クラス対抗発表会では、それぞれのクラスが好きなテーマを決めて発表する。
発表内容はなんでもいい。劇でも、芸でも、合奏でも、レポート発表なんかでもなんでもありだ。

ただ、傾向としては、合唱が選ばれることが多かった。
その理由として、合唱はだれもが主張し過ぎることがなく、 歯車のひとつとして個性を埋没させられるからではないか、と僕はにらんでいた。

六限目の学級活動の時間では、その発表会のテーマを決めよう、ということになった。

「だれか、アイデアがある人はいますか?」

担任の先生が問いかけても、B組のクラスはしん、と静まり返っていた。
にぎやかなA組とちがって、B組はどうも自己主張が弱い生徒が集まっているように思える。

「うーん、先生が進行すると意見を出しづらいかしら。それなら……そうね、葵君」
「……え? あ、はい」
「あなたが代わりに、この話し合いを勧めてくれる?」
「……わかりました」

ほんとうは僕もみんなのように、流れに身をゆだねたまま、ぼんやりとしていたかったんだけれど。
僕はまえに出て、先生の後を引き継ぐ。

「それでは、なにかアイデアがある人がいたら、手をあげてください。いくつかの案が出たら、多数決でどれにするか決めよう」

そうして結局、多数決の結果、B組の出し物は合唱に決まった。
想像どおりといえば想像どおりの、B組らしい無難な結果だった。

残りの時間で歌う楽曲も決まり、後は発表会の日まで、練習するのみとなった。

「練習場所は、音楽室をメインとします。練習時間は、昼休みか、放課後かな。 ただ、音楽室は他のクラスも使うと思うので、あまりに練習時間がとれないようだったら、教室も練習場所の候補に入れておこう」

そう僕が言うと、一人の女子生徒が、おずおずと手をあげた。

「で、でも、いま、音楽室ではお化けのうわさがあるんでしょう……?」

その発言に、B組の教室がざわつく。

「なにそれ、お化け?」
「夜中にベートーヴェンの肖像画の目が光るとか?」
「ちがう、ピアノが勝手に鳴るらしいよ……」
「ネズミでもいるんじゃないの、それ?」

僕は両目を片手で覆った。
どうやらこのクラスでも、A組と同じ工作をする必要が出てきたらしかった。