プロローグ


この世界を創造した神は完璧な存在だ、……と、鷲村澄人(わしむら・すみと)は信じていた。

人が生きたいと思うことも、死にたいと思うことも、そのすべては神が決定した事項なのだ。
それは言いかえれば、すべての人間の行いは正しく、どの瞬間であってもあるべきすがたで存在している、ということだ。

鷲村は、ポケットのなかに入れてあったサバイバルナイフの刃の感触を、指でたしかめた。

……実行するには、天気のいい日がいい。
雨の音にかき消されでもしたら、台なしだ。

鷲村はのどかな町のなかを見渡すと、わずかにほほえみをもらした。

……ああ、ここはなんておだやかで、安らかな世界だろう。

まちがいのない世界で、
正しいプログラムだけが永遠に実行されていく。


好きになることも、

愚かしいことも、

嘲笑うことも、

疑うことも、

諦めることも、

嘆かわしいことも、



……そしてこれから自分が人を殺めるということも、
すべては正しい、神のプログラム。