「……いちばん高いものをたのんだからには、きっちりと質問に答えてもらいます」
玲花がふたたび、メモ帳を取り出した。
「まず、あなたたちの所属している部活動は?」
勝手に注文されて、呆気にとられていたふたりだったが、すぐに気をとり直すと朔之介が口を開いた。
「ふたりともパソコン部。……っていうか、ほんとうに聞きたいのは俺たちの部活のことなんかじゃあないんでしょ?」
玲花はわずかに、目を見開いた。
「……どうして、そう思ったんですか?」
朔之介はというと、肩をすくめてみせた。
「だって、うちの学校の取材っていったら、赤月のことに決まってるじゃん」
「でも、……僕たちは彼らについて、なにも知りませんよ」
新弥が困ったように言った。
「赤月なんていろいろあるんでしょうけれど……、赤月君は、家の事情を学校に持ちこむような子じゃないし」
「成績も学年トップの、優等生『だった』もんなぁ」
玲花のまゆが、ぴくりと動く。
「『だった』、っていうと?」
「いや、赤月は一ヶ月まえに転校したんだよ」
朔之介が言って、玲花が表情を固くした。
「……転校? つまり、彼はもう、あなたたちの学校にはいないと……?」
「六路木さんってさぁ、おっちょこちょいだよね」
また余計なことを言う朔之介を、新弥があわててひじでつつく。
しかし、玲花はというとひとり、考えこんでいた。
赤月誠が転校したという『一ヶ月まえ』とは、ちょうど豪華客船の事件が起こったころだ。
……こんな偶然があるだろうか?
玲花はゆっくりと顔を上げて、朔之介と新弥にたずねた。
「……では、質問を変えます。
赤月誠のご両親も、かつてはあなたたちの学校に在学していたそうですが、なにか残っているうわさはありますか?」
「そういうのは、ぜんぜんないよな……、うちの学校では、どっちかというと『姫野ミカミ』の話のほうが、有名だし」
玲花が怪訝(けげん)そうに、朔之介の顔を見る。
「……姫野ミカミって、だれですか?」
新弥がこそりと言う。
「いろいろ逸話が残っている、うちの卒業生の名前です。
流し目で人を殺したとか、高校生なのに殺人事件を解決したとか。……まあ、ただのうわさに尾ひれがついているだけでしょうけれど」
「そういや、あの赤月桜子も、姫野ミカミと同じ同好会だったよな?」
「……その同好会の名前は?」
玲花の質問に、朔之介と新弥が同時に答えた。
「ミステリ同好会」