ほどなく運ばれてきたのは、『特盛オムライスチーズカレーセット』だった。
その量の多さに朔之介と新弥は「げっ」と声をあげたものの、これはなんとかクリアした。
しかし、そのあとに運ばれてきた『超特大チョコレートパフェ』をまえにして、すぐに白旗をあげた。
「六路木さん、無理しなくていいんですよ……?」
朔之介は、もくもくとチョコレートパフェを口に運び続ける玲花に、おそるおそる声をかけた。
しかし玲花は特に表情を変えることもなく、自分のぶんのパフェをあっという間に平らげた。
玲花はナフキンで口もとをぬぐいながら、言った。
「頭を使うとすぐおなかが空くので、平気です。
……あなたたちのぶんも食べてもいいですが、あまいものだけだと飽きるので、塩味のあるものを追加してもいいですか?」
玲花のその発言に、ふたりは恐怖を覚えたのだった。
朔之介と新弥のふたりとわかれた玲花は、書類の束に目を落としながら、町のなかを歩いていた。
空はすっかり暗くなっていたが、電灯や繁華街のネオンの明かりのおかげで、道路の上は明るい。
(……姫野ミカミ、か)
赤月桜子と同じ同好会に所属していたのなら、いまでも連絡ぐらいなら取り合っているかもしれない。
赤月誠が転校していたことには少々がっかりしたが、
『姫野ミカミ』はもしかすると、新たな情報源になるかもしれない……。
そのとき、
「……きゃっ!?」
考えごとに没頭していた玲花は、通行人とすれちがいざまに肩をぶつけてしまった。
その拍子に、手からはなれた書類が道路の上に散らばった。
「ご、ごめんなさい……!」
玲花があわてて頭をさげると、玲花とぶつかった通行人の男は、律儀にも玲花の落とした書類を拾い集めてくれた。
「あの、ありがとうございます」
玲花がお礼を言って相手の顔を見ようとしたが、男の顔は帽子にかくれてよく見えない。
男は拾った書類を玲花に押しつけると、なにも言わずにそのままどこかへと行ってしまった。
男のうしろすがたを見送りながら、玲花は首をかしげた。
「……ずいぶん、シャイな人ですね」
そのとき、ふと、うす汚れた看板が目に入った。
それが目に留まったのは本当にぐうぜんで、ふだんならまったく気にしないような文字だった。
そこに書かれていたのは『深神探偵事務所』。
…「フカガミ」探偵事務所、だろうか?
いままで思いつかなかったけれど、
ダメもとで探偵に依頼してみるのも、わるくはないかもしれない。
玲花は腕時計を見る。時刻はもう二十時を過ぎていた。
……今日はもう遅いから、あしたにでもこの探偵事務所ものぞいてみよう。