取材(g)


玲花はうす汚れたビルの階段をのぼり、探偵事務所の看板のかけてあるとびらを開けた。

「おじゃまします……」

カランカラン、と木製のドアベルが鳴る。
ビルの外観とは異なり、事務所のなかはよく片づいていて、清潔にしてあった。

玲花はまじまじと、内装を観察した。

そとから見たよりも広めのワンフロアで、入ってすぐ左手にソファーが向かい合わせに置いてある。
その奥には間仕切りがあって、どうやらその先にはまだ部屋がありそうだ。

「おやおや、お客かな?」

とつぜん、うしろから声をかけられた。
まったく気配というものがしなかったので、玲花は飛び上がりそうになった。

声をかけてきたのは、長身の男だった。

線は細くスーツを着ているが、屋内なのになぜか帽子をかぶっている。
……しかも、帽子にはネコの耳がついていた。

「そこのソファにかけたまえ。お茶をいれよう」
「あ、あの、おかまいなく」

玲花は一歩あとずさりして、鞄を胸もとにかまえた。

「人探しの依頼で……、探偵さん、いらっしゃいますか?」
「私が探偵だ」
「……えっ」

玲花はあらためて、深神を見た。

ネコ耳帽子の探偵なんて、聞いたことがない。
そんなに目立つかっこうをしていて、きちんと仕事ができるのだろうか。

……しかしこういう職業だ、もしかすると、なにか心理的な意図もあるのかもしれない。

玲花は帽子のことは極力気にしないようにつとめながら、男にすすめられるまま、ソファに腰をかけた。

待つこと数分、紅茶のいい香りとともに、男がもどってきた。

「さて、依頼内容を聞こうではないか。あらためまして、私は探偵の深神(みかみ)だ」

男がソーサーとカップを玲花の前に置いた。

……フカガミじゃなくて、ミカミって読むのか。

玲花は足をそろえ直すと、深神が向かい側のソファに座るのを待ってから言った。

「ある人に会いたいんです。……名前は、姫野ミカミ」