気配(e)
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「たとえあなたがうそをつく人だったとしても、私はあなたに質問します。私が知りたいのは……」

玲花が深神にたずねようとしたとき、玲花の言葉をさえぎるかのように電話の着信音が鳴った。
着信音は、深神の電話のものだった。

「おっと、失礼」

深神はスーツのポケットから携帯電話を取り出した。

「どうした、緋色? ……ふむ」

まもなく、深神の目つきが、みるみるうちにけわしいものへと変化していった。

「……なんだと? 犯人は自分から、"鷲村澄人"と名乗った……?」

深神が電話をしているあいだに、紅茶に口をつけようとしていた玲花は、
その名前を聞いたとたんに、カップをカチャン、とソーサーの上に落とした。

深神はちらりと玲花に視線を向けながらも、電話の相手と話を続けた。

「……わかった。なにかあったらまた電話をしてくれ。私は至急、志摩子と連絡をとる」

通話を終えた深神は、玲花を見下ろした。

「"鷲村"について、なにか知っているな? 関係者か?」
「……、鷲村澄人は、私が以前記事にしたことがある、ある事件の容疑者の名前です」

そう言う玲花の顔はまっ青だった。

「傷害罪を犯して、現在は執行猶予中のはずです……」
「きみは、なぜ彼のことを記事にしたんだ?」
「……そんなことをするような人には、見えなかったから」

玲花は混乱しているようだったが、深神の問いには正直に答えた。

「写真を見たとき、なにかへんだな、と思ったんです。
そうして事件を掘り下げていくと、傷害罪ではなく"過失"傷害罪だった疑いが出てきて……」

玲花は顔をあげて、深神にたずねた。

「彼は、なにをしたんですか?」
「月見坂学園に爆発物をしかけて、立てこもっているらしい」
「なんてことを……」

玲花が口をおさえ、深神は自分の携帯に視線を落とした。

「ひとまず、知り合いの警視に連絡を取りたい。……きみ、名前は?」
「……六路木玲花です」
「六路木君。私の助手が、学園内に取り残されている。……きみの協力が必要だ」

玲花はだまってうなずいた。



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