ほん(d)


部屋には木製のベッドが置かれていて、ひとりの老女が、そこに上体を起こして座っていた。

ろうそくの明かりに照らされて、きらきらと光る銀色の髪。
やさしげな双眸(そうぼう)は窓の外に向けられていて、そのすがたはまるで絵本のなかに出てくる妖精のようだ。

老女の茶色い瞳の色に、は見覚えがあった。

「……あ、アルノくんの、おばあちゃん?」

郵便屋の家で出会ったあのアルノと、どこか似ている。
のつぶやきに、郵便屋がうなずいた。

「ええ、そうです。……アルノは以前、フィリーネさんとふたりで暮らしていましたが、彼女のからだが弱ってきてからは、ルイスが看病をしてくれているんです」

それから郵便屋は、老女に近づいて、そっと声をかけた。

「こんにちは、フィリーネさん。アルノから手紙をあずかってきました。アルノはあいかわらず、僕の仕事を手伝ってくれています。働き者なので、僕もとても助かっていますよ」

フィリーネは、言葉を発さない。
でも、にこにこと笑っていて、とてもうれしそうだ。

郵便屋は、フィリーネの顔に垂れていた髪を、さらりと横に流してやった。

「……また来ます。今度ここへ来るときは、アルノもいっしょです」

そう言って、郵便屋はやさしげな瞳でフィリーネにほほえみかけた。