あめふり(d)


「……雨、止まないなあ」

は、ルイスの家のダイニングの窓から外をながめていた。

「そうですね」

そう相づちを打ったフミに、はたずねた。

「フミは雨……っていうか、からだが水に濡れるのは、平気なの?」
「はい。私は宇宙上で発生するどんな衝撃にも耐えられるよう、普通の生物よりも丈夫に設計されています。万が一の場合も、現地調達で修復やエネルギー変換が可能です。私の乗ってきた宇宙船は上空で燃えつきてしまいましたが、時間さえあれば、この星の素材である程度は復元できるでしょう」
「へえ……、よくわからないけれど、やっぱりすごいんだな、フミって」
「ええ、すごいでしょう」

誇らしげに言うフミがまるで人間そのものだったので、はなんだかおかしくなった。

「フミはおもしろいな。……フミを創った人は、どうしてフミを創ったんだろう?」

その言葉に、フミは笑った。

「私の顔、すこしだけ女の子みたいでしょう?」
「え、……」

言われて、フミの顔をまじまじと見る。

紺碧の海のようで透き通っていてきれいだけれど、どこか人工的な、ふしぎ色合いの瞳。
髪はすこし長めだし、瞳も大きい。その顔だけ見れば、たしかにどことなく中性的だ。

「言われてみれば、そうかな」
「私のマスターには、復元したい女性がいたんです」

はなんと言っていいのかわからず、フミを見つめた。
フミは笑顔のまま続ける。

「しかし、私はなれなかった。いくらバージョンを重ねても、私は『フミ』だった。
本来ならばスクラップ……、それでもマスターは私を側に置いて、『フミ』としてかわいがってくれました」

フミはから視線をはずさない。

「そして私は、宇宙を旅する役目を任されました。私は、マスターに創造されたことを、誇りに思っています」

フミの視線は、まっすぐだった。
その視線にはたじろぎながらも、言った。

「……ぼくに記憶はないけれど、たぶんフミのような優秀なロボットとは、話をしたことがなかったと思うよ」
「……『ロボット』」

そのとき、フミが急に神妙な声色で、の言葉を復唱した。

も私のことを、『ロボット』と呼びました。ロボットとは私の星の言葉です。……そしてたしかに私はロボットですが、この街、いえ、この星のいまの文明と技術力では、ロボットを生み出すことは不可能に近いでしょう」
「……つまり、この星に『ロボット』という言葉がない。でもぼくは、この国にない言葉を、知っていた……」

は考えこんだ。

「ぼくたちはこの街の人間ではないだろうとは思っていたけれど、……もしかして、とんでもなくとおいところからやってきたのか……?」