01:探偵と助手(c)
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鈴音はしばらくだまった後、長い息をはいた。

「たいしたものね。……あたしの名前は、"丹波鈴音(たんば すずね)"。お察しのとおり、ピアニストよ」
「あ……、私は黒野都子(くろの みやこ)です。旅館"あやめ"の支配人補佐をしています」

都子がぺこりと頭を下げ、鈴音はいぶかしげに深神にたずねた。

「……ところで、どうして探偵がこんなところにいるの?」

鈴音の問いに、深神が答える。

「実はつい先日、わが事務所に犯行予告が届きまして」
「ちょ、ちょっと深神さん……っ!」

深神がその先を言おうとするのを、ハルカがあわてて止めた。

「い、いいんですか? ……犯行予告のこと、そんなに大っぴらにしてしまって」
「ほんとうに事件が起こるなら、このことはどのみち、いずれ知ることになる事実だ」

深神はそういうと、胸元からなにかを取り出した。

それはまっ白な、ぶ厚い紙でできたカードだった。
カードの上には、古めかしい書体の文字が印刷されている。

『船の上で事件が起こる。港にもどるまでに犯人を探されたし』

カードに書かれているのは、その一文だけだった。
カードをのぞきこんだ鈴音は、首をかしげた。

「この……犯人って、いったいなんの犯人なの?」
「さあ、そこまではわかりません」
「ちょ、ちょっとお……、なんだかこわくなってきちゃったじゃない」

鈴音が顔をしかめた。
そのとなりで、都子が不安そうに深神にたずねた。

「あの……、このこと、赤月代表は知っているんですか?」
「ええ、知っているわ」

とつぜん、深神とハルカの背後で女性の声が聞こえた。

そこに立っていたのは、まっ赤なドレスを着てまっ赤なヒールをはいた、三十代前半の女性だった。
肩より少し長い髪をもつ、つややかな美人だ。

女性はハルカに向かってほほえむと、名乗った。

「こんにちは、深神先生。そしてあなたが助手の、ハルカ君ね?
私は今回のパーティの主催者でもある、赤月グループの代表、赤月桜子よ。
先日、こちらの深神先生から犯行予告のお話をうかがったわ」

そう言った桜子に、鈴音がたずねた。

「も、もちろん、犯行予告のことは、警察にも通報したんですよね……?」

すると桜子は、深神の手からす、とカードを抜き取ると、そのカードを口元にあてて、ほほえんだ。

「まさか。こんなにおもしろいことが起こりそうなのに、パーティがとりやめになんてなったら、もったいないじゃない?」



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