調査開始から三日目。
深神は、きのう出会った時枝響平と宮下緋色が入所している児童養護施設について調べた。
そしてその施設をつき止めると、午後からその場所に向かった。
空は雲におおわれていて、日差しは弱い。
しかし風がないので、比較的過ごしやすかった。
思い起こしてみれば、雨が降るなかで過酷な任務を遂行したことはないような気がする。
自分が晴れ男なのか、はたまた依頼自体が少ないせいなのかはわからないが、
天候に恵まれていることに越したことはない。
深神はさっそうと、町なかを歩いていった。
施設は、蛍が丘市の住宅街のなかの、葵家からは徒歩五分といったごく近所にあった。
建物はすこし大きめの民家のような外観で、広めの庭には芝生が敷かれている。
その敷地内では学校から帰ってきたばかりであろう小さな子どもたちが、何人かでボール遊びをしていた。
そんな子どもたちのなかに、あの響平の姿があった。
深神は彼と目が合うと、ちょいちょいと手招きをした。
呼ばれた響平は敷地の外には出ず、フェンス越しに深神と会話した。
「ミカミ先生、なにか用?」
「こんにちは、響平君。緋色ちゃんは?」
響平は首を回して、庭を確認した。
「多分、部屋で本を読んでいるんじゃないかな。呼んでくる?」
「いや、君だけでもかまわない。緋色ちゃんについて、すこし教えてくれないかな」
「えー……」
響平は、不満気な声を上げた。おとなに反発したい年ごろなのかもしれない。
「教えてくれたら、アメをあげよう」
「……ミカミ先生って、いつもお菓子持ってんの? それに俺、もう六年生なんだけど……まあいいや」
すこし時間をかけて考えてから、響平は答えた。
「緋色はおとなしい子で、あんまり本音で話すようなタイプじゃないと思う。
学校では萌乃と一番なかがよくて、施設の子どもよりか姉妹みたいにしているよ」
「緋色ちゃんが、萌乃ちゃんを慕っているのか」
「ああ。萌乃は元気で頭もいいし、かわいいからな」
何気なくそう言ったあと、響平がぼっと赤くなってあわてふためいた。
「ちっ、ちがうっ! クラスのやつらがそう言っていただけで、俺はべつになんとも……っ!」
「とにかく萌乃ちゃんは、クラスでも人気者なわけだ」
深神が意地悪そうに笑うと、響平がきっと深神をにらんだ。
「いま言ったことは、ぜったいにだれにも言うなよっ!」
「わかった、わかった」
そして深神は、わずかに首を傾げてみせた。
「それと念のために聞いておくが。響平君はきのう、ナキオ君をほんとうに見ていないんだね?」
響平はきょとんとした顔をした。
「? 見てないけれど」
「そうか、ありがとう。きのう渡しそびれたが、今後なにかあったら、ここに連絡してくれ」
深神が響平に自分の名刺を手渡したところで、
「ちょっと君、いいかな」
ふいに、何者かに声をかけられた。
深神がふり向くと、そこにいたのは警察官の制服を着た男だった。