聞き取り調査(a)


ナツといたるが図書館を出ると、わっとセミの大合唱に包まれた。

「セミ、すご」

ふたりは顔を見合わせて笑う。

じりじりとした暑さは相変わらずだが、木かげに入れば涼しい。
ふたりはかげからかげへ飛び移りながら、携帯ショップへと向かった。


携帯ショップの店員の男は、困ったように言った。

「その、電話の相手の番号なら着信拒否にすることはできるけれど」

店内には客がまばらで、店員のほうが多いくらいだった。
ふたりが店内に入ってすぐににこやかに近づいてきた店員だったが、事情を聞くにつれて、みるみるとむずかしい表情になっていった。

店員は、メモを書きながら丁寧に説明してくれた。

「たとえば、Aさんがその……『イクマさん』の番号に電話をかけると、きみたちの電話に転送される。その場合、Aさんを着信拒否にすることはできるけれど、転送そのものは止められないんだよ。ちょっとややこしいんだけれどね」
「イクマさんを着信拒否にしても、電話は転送されてきてしまうってことですか?」
「システム上は、そうなるね」

いたるはねばった。

「相手の番号がわかっているのに、ほかに打つ手はないんでしょうか?」
「個人情報だから、直接アプローチはできないんだ。きみの携帯番号を変えるか……あとは警察かな」

結局は警察という言葉にもどってしまった。
いたるはがっかりして肩を落とした。

一方で、ナツは腑(ふ)に落ちないようすだった。

「いたるはなにも悪いことをしていないのに」

考えてみたら迷惑な話だ。 「イクマさん」ひとりの勝手によって、警察にまで行かなきゃいけないなんて。

「イクマさんって、どんな人なんだろ?」
「うーん……たしかに気になるけど」

いたるは首を傾けた。

「もしかすると、ぼくたちが考えているよりもずっと、深くて複雑な事情があるのかもしれない」
「あるかなぁ?」
「事実は小説より奇なりっていうでしょ?」
「キナリ……ってなに?」
「ふしぎ……みたいな意味かな。……あの、話を聞いてくれてありがとうございました」

いたるは店員に向かってお辞儀をした。
そして不服そうなナツをなだめ、ふたりは携帯ショップをあとにした。