脅迫電話(c)


夜の7時ごろ、ナツがいたるの家へとやってきた。

いたるの家は敷地が広く、邸宅然としていた。
シャッターつきのガレージは室内に繋がっており、大判タイルが敷き詰められているリビングは広々としている。
この広さは住むにはうらやましいが、ひとりで留守番をするには心細いだろう、とナツは思った。

ふたりはナツの母親が持たせてくれた、コールスローサラダと豚肉と野菜を炒めたものをおかずにして、夕飯を食べた。

「ナツくんのお母さん、料理がじょうずだね」

一口食べて、いたるが目を輝かせた。

そんないたるも、料理は得意なほうだ。
いたるの両親は家を空けていることが多いが、家族がそろうときはいたるが食事を用意したりするらしい。

ナツの足元では大きな猫が寝ている。
毛が長く、全体的にクリーム色で、ところどころに黒色のポイントが入っている。
名前は「ショパン」というらしい。

ショパンを驚かさないように、ナツは足元に注意をはらいながら、いたるに言った。

「それで、明日のことなんだけれどさ」

いたるが箸を止めた。

「うん」
「なにかあったらすぐに警察の笑奈さんに通報するとして。……100万円で、なんとか犯人を誘き出せないかな?」
「……うん?」

ナツの提案に、いたるの箸だけではなく思考も止まる。

「えっと?」
「だからさ、100万円を犯人の言っていたマンションのまえに置くんだよ。そしたら犯人はそれを取りに来るだろ? そのときに犯人の顔の写真をこっそり撮るんだ」
「……ええっと」
「そのあと犯人を尾行して、イクマさんを救出するんだ!」
「ま、待って待って!」

いたるがあわてて箸をテーブルの上に置いた。

「いろいろ言いたいことはあるけれど、そもそもその100万円はどうやって用意するの?」

すると、ナツはにやりと笑ってカバンからお年玉袋を取り出した。

「ここに1万円がある。……これを100万円にする!」