ナツはお年玉袋から、1万円の新札を取り出した。
「この1万円を一番上にして、その下に99枚、同じ形の紙を重ねるんだ」
「それは、まぁ……遠くから見たら、100万円に見えるかもしれないけれど」
いたるはためらいながらも言った。
「たぶん偽物だって、すぐにバレるよ」
「バレたっていいんだ。その場に犯人が来てくれさえすれば」
「うーん……」
いたるはリスクについて考えた。
相手は自分たちのことを、どこまで知っているんだろうか。
札束が偽物だと犯人が知ったとき、自分たちやイクマフウタに危険はないだろうか?
「イクマさんが心配なんだろ?」
ナツがいたるの心情を読み取ったように言った。
「でも、犯人が100万円を取りに来るとき、イクマさんは別の場所に捕まっているはずだ。だから犯人がイクマさんのところへもどる直前に、イクマさんを救出すればいいんだよ」
そしてナツは、得意げに胸を張った。
「それに、オレにはとっておきがあるから! オレを信じろ!」
そう言うからには、いたるには伝えていない「なにか」がナツにはまだあるんだろう。
あえて伏せているのは、犯人がこの会話も盗み聞きしていたらという配慮だろうか。
……だとしたら、100万円のこともすでにバレちゃってるんだけれど。
ナツはそのことに気がついているのかいないのか、またカバンのなかをごそごそとあさった。
「100万円の材料は持ってきたぜ。自由帳と、ハサミ」
テーブルの上に出されたそれらを見ながら、いたるは苦笑した。
「……ハサミだと、まっすぐに切れないかもね。待って、定規を使ってカッターで切ろう。あと、せっかくの自由帳を切っちゃうのはもったいないよ。……うちにいらないコピー用紙がたくさんあるから」
食べ終えた食器を手に、いたるが立ち上がった。
「いっしょに100万円、作ろっか」