ナツといたるのふたりは、おそるおそる河川敷を降りていった。
足元は小石ばかりで歩きにくいが、音を出さないように慎重に歩く。
そして橋のしたの、濃い影になっている部分にあの男たちがいるのを見つけた。
少し離れたところに、あの黒い車も停まっている。
突然、スーツの男がケープの男の腹に蹴りを入れた。
「ぐはっ……!」
ケープの男は、そのままうずくまるようにその場に倒れこむ。
スーツの男が言った。
「別に返済のことでここまで怒っているわけじゃないんですよ」
「じゃ、じゃあなんで……」
「イクマさん。あんた、取り立ての電話が嫌で、自分の携帯電話の番号を他人に転送しましたよね?」
ナツといたるはおどろいた。
同時に、ナツがはっとして息をのんだ。
「……あの人、最初の電話でイクマさんについて教えてくれた……取り立て屋の人か?」
スーツの男はナツたちには気がついていないようだ。
ケープの男……伊久間封太は、倒れたまま声を振り絞った。
「ああ、あれは……あれは、誤解なん……、うぐッ!!」
話している途中でもう一度蹴られ、封太はうめいた。
スーツの男は、心底軽蔑したように、そんな封太を見下ろした。
「自分のケツもふけねぇくせに、ガキを巻きこんでんじゃねぇよ」
「違う……違うんだ。転送なんてしていない……」
封太は痛みに震えながら、身体を丸くしている。
「どうしよう」
いたるが青ざめながらナツを見た。
「イクマさんが殺されちゃうよ」
ナツが周囲を見回す。
「武器になりそうなものはなにもない。……小石ばっかり……」
「……ぼくたちが大声をあげて気を引く?」
「引いたあとは? ……ルカさんを待つしかない。もうすぐ来てくれるはずだ」
一方封太は、なんとか顔を上げてスーツの男に言った。
「あれは……、あの子の電話番号が、『同じ』だったんだ」
「なにをデタラメ言ってるんですか。転送先の番号は違ったはずです」
「スマートフォンのほうじゃない。……『スマートウォッチ』の番号だ」
「はァ……?」
そのとき、ナツといたるは同時にうしろから肩を叩かれた。
叩いたのは、ルカだった。