もり(d)
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郵便屋の家は、入り口を入ってすぐ左がわに、小さなカウンターがあった。
すぐそばには来客用の机とイスが置かれている。どうやらこのスペースは、郵便屋の仕事場らしい。

家に足を踏み入れてみて、たちはアルノがなぜ泥棒が入ったと言ったのか、すぐに理由がわかった。
カウンターのなかには書類が散乱し、机の引き出しがどれも開けっぱなしになっていたからだ。
それはあきらかに、だれかが荒らした形跡だった。

アルノは肩をすくめて言った。

「オレとロミィがすこし家を離れていたすきに、こんなだぜ?
それからふたりでなくなったものがないか探したけれど、どれも派手に散らかっているだけだったんだ」
「そんなことが。……ひとまずふたりとも無事で、よかったです」

郵便屋はそう言ってアルノとロミィの頭をやさしくなでると、カウンターのなかの片づけを始めた。
たちも、あわてて郵便屋を手伝う。

しばらく片づけを進めてから、郵便屋が言った。

「……たしかに、なくなったものはなさそうです。なにも盗むものがなくって、あきらめたんでしょうか……?」
「けっこう、多いんですか? このあたりで泥棒とかって」

がたずねると、郵便屋は首をふった。

「いいえ。この街は国のいちばん端にある、小さな街です。街を見回るような兵士はいませんが、
それでも大きな争いの起きたことがない、治安のいいところなんです。泥棒なんて話もめったに聞いたことがないのですが……」

郵便屋は集めた書類をとんとん、と机の上で整えると、たちに言った。

「一度ねらわれて、二度目がないともかぎりません。
まわりの家の人たちにも気をつけてもらうよう、声をかけておきます」

そのとき、家の外からやわらかなラッパの音が聞こえてきた。

「あの音は……?」
「郵便ラッパです。となり街からの郵便馬車が到着したようですね」

そして郵便屋は近くにあった箱をよいしょ、と持ち上げると、とびらの外へと出て行った。
が窓から様子をうかがうと、郵便屋が御者に先ほどの箱を渡し、また逆に郵便屋も荷物を受け取っていた。

「見て、お兄ちゃん。馬!」

が馬車につながれた馬を見てはしゃぎ、アルノが言った。

「馬なんかではしゃぐなんて、へんなやつだな。……あの馬車は、いろんな街を移動するんだ。
ああやって御者からこの街の郵便物を受け取って、それを街の人たちのもとへと届けるのが、ここの郵便屋の仕事さ。
そしてこの街からの郵便物は、あの馬車がまたどこかの街へと運んで行くってわけ」
「人の想いが、いろんな人たちの手によって運ばれていくのって、なんだか感慨深いな」

がつぶやいた。
ほどなくして郵便屋が家のなかにもどってくると、たちに声をかけた。

「僕はこれから、いま受け取った郵便物を街の人たちへ届けていきます。
。もしもまだ疲れていなければ、街のなかをいっしょに案内しますよ」
「行きます!」

ふたりは元気よく即答した。



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