中央広場のベンチにベルナデットとふたりで座っていたは、郵便屋がふらり、と家から出てくるすがたを見かけた。
「あ、郵便屋さん。……どうしたんですか? なんだか、顔色がわるいようだけれど」
「僕はだいじょうぶです」
郵便屋は両目を片手で覆いながら、にたずねた。
「それより、は……」
「郵便屋さん!」
ちょうどそのとき、が走ってきた。
全力で走ってきたのか、息を切らせて顔も青い。
「郵便屋さん、たいへんなの! フィリーネさんが……!」
郵便屋はそれを聞いてすべてを察したようで、うなずいた。
「……アルノとロミィは、いま、教会へ行っています。僕が呼びに……」
「ばかものめ」
ベルナデットが強い口調で郵便屋に言った。
「そんなことは、私がする。郵便屋ははやく、フィリーネのもとへ行け!」
「……ありがとうございます、ベルナデット」
郵便屋はこんな事態のなかでも、ほほえみを崩さなかった。
「それでは、行きましょうか」
ルイスの家に向かうあいだ、はゆめで見たことを郵便屋に話した。
「あれは、ほんとうにあったことなんですか? 郵便屋さんは、いったい……」
「……森の神さまの話を、にはまだしていませんでしたね。森の神さまは、どんな願いでも叶えます。そしてその代償に、『永遠の悪夢』を与える。……フィリーネは生き返ったあと、僕のことを覚えてはいませんでした。僕はというと、かなしみや、怒りといった感情がわからなくなってしまいました。この不自然な状態のまま老いることもなく、生き続けること。それが神さまが僕に与えた、『悪夢』なんです」
「そんな……っ!」
は涙ぐんだ。
「好きな人を助けたいって願うきもちに、どうしてそんな罰を与えるの!?」
「いいえ、。神さまは、僕の願いを叶えてくれました。これは罰ではなく、取り引きの代償です」
「だとしたって、あまりにも残酷だよ……!」
そしてルイスの家の前に着くと、は足を止めた。
「……?」
「私、ここで待ってる。……郵便屋さんは、フィリーネさんのところに行ってあげて」
はぐすぐすとはなをすすりながら、郵便屋に行った。
郵便屋は苦笑すると、の頭をそっとなでた。
「……ありがとうございます」
郵便屋はそう言って、ひとりでルイスの家のなかへと入っていった。