D棟の空室(c)
----------

月見坂学園の敷地は、広大だ。
体育室と運動場はふたつずつあり、屋外プール、ソフトボール場、園芸室、部室棟なんかもある。

そのほかの建物は、A棟からE棟までの5つ。
中等部や図書室などがあるA棟、僕たちが所属する高等部があるB棟、そして初等部のC棟。
家庭科室や理科室など、特別な教室はD棟で、E棟は食堂がメインだ。
A棟とB棟の校舎は渡り廊下でつながっているが、C棟へ行くには第一運動場をはさんでいるので、
移動するには一度、校舎を出なければいけない。

僕とミカミ、そして雀さんは、いままでいたB棟をあとにして、
まずは縫針先生との待ち合わせ場所だった、第一体育室をのぞいた。

なかにはバスケットボールの練習をしている生徒たちが何人かいて、
ボールを床に打ちつける音と、キュ、と靴底が鳴る音が天井に響いている。

僕は首を回して体育室のなかを探してみたけれど、縫針先生のすがたはなかった。

「やっぱりここには、いないみたいですね……」

そして体育室を出て、初等部に向かおうとしたそのとき。

「や、山吹くん! ミカミくん……ッ!」

僕たちのところへ息をきらしてやってきたのは、日高さんだった。
僕は彼女の表情を見て、おどろいた。

「日高さん、どうしたの? 顔がまっ青だよ」

日高さんのメガネの奥の目は大きく見開かれていて、まるでなにかおそろしいものを見たかのような顔つきだ。
日高さんはそのまま僕の制服のシャツの布をつかむと、その場にへたりこんだ。

「あの、そこ、私、校庭のニワトリ小屋まで行こうと思って、D棟の前を通って、
ほんとに、なんとなくなんだけれど、そのとき特別活動室の窓が開いてるのが、気になって……」

日高さんの話は要領を得ていない。
しかし、なにかただごとではないことが起きたことは瞬時にわかった。

僕は日高さんをすこしでも落ち着かせるため、いまの情報をまとめながら、ゆっくりと言った。

「特別活動室は鍵もかけられてないし、いまはただの空室だからね。
……それで、その活動室で、なにがあったの?」

僕がたずねると、日高さんは「わっ」と顔をおおって、ふるえながら言った。


「……縫針先生が、だれかに殺されてるの……!」



<<前のページ  【おやすみ、ノイズ】にもどる  次のページ>>