おねがい(a)
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は、森をあとにして街のなかを歩いていた。

「お兄ちゃん、はやく記憶をとりもどして、郵便屋さんたちの呪いを解いてもらわなくちゃ!」
「ああ。……でも、手がかりらしいものもないし、どうすればいいのか……」

そのとき、ふたりはあの図書館の前を通りがかった。

「……あ、ベルナデットと出会った図書館だ」
「お兄ちゃん、きのうは急に、この建物の前で足を止めていたよね。なんだかそれって、運命じゃない?」

はすこしのあいだ、考えこんだ。

「……そうなんだよな。あのときはなぜか、この図書館に入らないといけない気がしたんだ」
「もしかして、悪夢を見せられているものどうし、共鳴したのかな?」
「そうかもしれない。……ぼく、もう一度この図書館に寄っていくよ。またなにか、新しい発見があるかもしれない」
「じゃあ、わたしは先に行ってるね。そろそろもどらないと、郵便屋さんたちが心配しちゃうかも」
「わかった」

そしてとわかれると、 はふたたび、図書館のなかへと入っていった。

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図書館のなかは、あいかわらず薄暗かった。
はきのう、ここで本を手に取ったときの違和感を思い出していた。

(……そうだ。ぼくが想像していた本と、ここに置いてある本はずいぶんちがっていたんだ。
もっと言えば、図書館のイメージがちがっていた。ぼくの知っている図書館っていうのは、もっと……)

思い出そうとすると、ちり、と頭が痛んだ。

そうだ。
頭が痛むということは、ぼくの考えかたはたぶん、まちがっていない。
ぼくやが言葉から想像するものと、実際に実物を目の前にしたときのずれが、
きっと記憶をとりもどす手がかりになるはずだ。

そのとき、ふと、本だなの奥で不審な動きをしている少女を見つけた。
しきりにまわりを気にして、手もとではごそごそとしている。

カチャカチャ、とくさりがこすれる音。
あのくさりは、きっと本を本だなにつないでいるくさりだ。

ということは……

「あのー……、きみ?」

がそっとうしろから近づいて声をかけると、少女はびくり、と飛び上がってを見た。

少女はと同じくらいの年齢だった。
長い黒髪を高い位置でひとつに結(ゆ)わい、からだの正面で布を重ね合わせて、腰の帯で止めたような衣装を身に着けている。
それは、この街の住民たちが着ているものとは、だいぶ構造がちがっているようだった。

「きみ、この街の人じゃあないね。……安心して、実はぼくもそうなんだ。
……でも、どんな理由があっても、ものを盗むのはよくないな」

はそっと、本から手をはなさせると、少女にたずねた。

「怒らないから言ってごらん。どうして、この本を盗もうとしたの?」

少女はしばらくのあいだうつむいていたが、やがて小さな声でぽつりと言った。

「……あたし、ここにある本、読めません。だから持ち出して、じっくり調べると思いました」

言葉のイントネーションが、どこかおかしかった。どうやら言語もちがうらしい。

「……なにを調べようと?」

すると少女は、ぱっと顔をあげた。
その顔はどこかかなしげで、苦しそうだった。

少女は言った。

「……あたし、知りたいですから。この街の、"神さま"のこと」



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